2021★和知20周年イヤー

京都高倉四条、燻製と地ビール和知20周年イヤーカウントダウンブログです。

テキーラって何の酒?

 日本中の多くのバーテンダーが探し求めているものがあります。
と言っても、幻のリキュールや、デッドストックのスコッチではありません。
ある国では、ものすごくポピュラーな植物です。
 その植物(品種)にごく近いものは日本にも多く輸入・栽培され、気候の合う地域では野生化して繁殖しているところもあります。
 その植物の名は、アガベ・アスル・テキラーナ(Agave tequilana Weber variedad azul)。
テキーラになる青いアガベ」という意味です。
アガベは北米南部〜南米北部の乾燥域に多くの種類が存在し、百年に一度花が咲くと言われていることからセンチュリー・フラワーとも呼ばれる多肉植物
和名は竜舌蘭(リュウゼツラン)。
 我らがこころの故郷、奄美大島のすぐ北にある喜界島の喜界町では町花に指定され、島中に野生化した竜舌蘭が生育しています
 「百年に一度」というのがキャッチーなので、植物園等で開花するとローカルニュースになるのですが、実際には大型で生育の遅い品種でも数十年で咲きます。
喜界島ではそこらじゅうで常に咲いています笑
 喜界島じゅうに生えていたり、近畿でも学校や公園で露地植されていたりする頑健な品種は「アオノリュウゼツランアガベアメリカーナ)」と言う品種で、実はこのアメリカーナからも酒は造られています。
竜舌蘭は先ほどの喜界町のリンクのように、株の中心から高く花穂(かすい)が伸びて花をつけるのですが、花穂が伸びかけた時に花穂ごと株の中心の部分をくり抜いてしまうのです。
そうすると、花を咲かせるための濃厚な甘い樹液(agua miel)がくり抜いた部分に溜まるので、それを汲み取って発酵させると低アルコールの濁酒が出来ます。
これをプルケと言います。
ではそれを蒸留すればテキーラになるのかと思ってしまいそうですが、残念ながらテキーラにはなりません。
テキーラとは何か?という説明は日本テキーラ協会のHPがとてもわかりやすいです。

www.tequila.jp.net シャンパーニュシャンパン)が決められたブドウ品種から、決まった製法を用いて、シャンパーニュ地方で造られたもののみが名乗れるのと同じで、テキーラと銘打つためには厳しい条件があります。
そのテキーラの原料として、200種とも300種とも言われるアガベの中で、唯一アガベ・アスル・テキラーナのみが認められているのです。
 そうそう、未だにしたり顔でテキーラはサボテンから造られるんですよ、なんて言ってるバーテンダーがいますが、それは日本酒は麦から造るんですよ、と言っているのに等しいレベルの間違いです。
(もし、何が違うの?という方がいらっしゃいましたら、解釈の問題も入って来て長くてややこしい話になるのでコメントでご連絡ください。)
 メキシコではものすごい面積で栽培されていて、めちゃくちゃポピュラーなのに、この園芸大国日本に全く入ってこない。

www.youtube.com40年来のサボテン・多肉植物ファンで、30年来の熱狂的な酒好きである私は数十年にわたってテキラーナを探し続けてきました。
それがどこにもない。
インターネットがない頃には全国のサボテン・多肉植物販売業者のカタログを取り寄せましたが、一度も見たことがありません。
もちろん各社に問い合わせてみましたが、どこに聞いても何それ?な反応でした。
  先週、秋の展示即売フェアに合わせて、40年前に通販で何度となくお世話になった豊中の山城愛仙園に行ってみた時に園主らしき方に詳しく聞いてみました。
テキーラを作るアガベありますか?と聞くと温室にも入れてもらえない軒先みたいなところにアメリカーナの大株がいくつかあり、あれだよ、あんなの売り物にならないから、と言われます。
いや違うんですテキーラになるテキラーナという品種があって、と食い下がると学名辞典も出して来てくれて探してくれたのですが分からないとのこと。
何度もメキシコでサボテン・多肉植物の自生地を巡られたそうですが、酒の原料となるアガベには全く興味がなかったそうです。

 先日、シェリー酒の権威であり、また酒に限らずありとあらゆることに造詣の深い中瀬航也先生のタイムラインでテキラーナの話になりました。
日本に入って来ないのは栽培が難しいから、という説があると聞いて、多肉マニアとして直感的に思ったのはそんな筈はねえ!でした。
アガベというのは基本頑健な植物で、上記の通り暖かい地方では野生化して巨大雑草のように繁茂しています。
ましてや経済(商業)品種であり、大量栽培されているテキラーナがそんなにデリケートである筈がない、と思い、そう書き込んだところ他の方からもご教示がありました。
これも憶測でしかありませんが、条件が揃った現地でもテキーラの原料となるまでに7〜8年かかる気の長い作物なので、日本でテキーラを造ろうとしても商業的に成立しない、ということが「難しい」と言われたのだろうということになりました。
 ちなみに先ほどの山城愛仙園の園主に、日本では栽培が難しいとの話があるんですが、と振ると鼻で笑われました。
そんなことはありえない、とプロとして断言されていました。 
 また話が脱線しますが、商業的に成立しない作物の一つにアーモンドがあります。
うちの庭でも写真のように毎年春に美しい桃のような花を咲かせるアーモンドですが、アーモンド林を作っても大量に収穫することは難しいようで国産アーモンドは商業ベースとしてはほぼ栽培されていません。

f:id:wachikuma:20180310163448j:plain

うちの庭のアーモンドの花


私の知る限り唯一商業化されたアーモンドがこちらです。

www.kahokuseiyu.co.jp あまりにもコストが高いので、食用にすることは諦めてオイルを絞り、美容や健康向けにものすごい値段で販売されています。
「難しい」というのはそういう意味だろう、ということに落ち着きました。
 なお、現在オーストラリアではテキーラ(原産地呼称制度により、実際に生産された場合はアガベスピリッツという名称になります)よりもバイオ燃料の原料として商業栽培が試みられており、日本でも過去に商業栽培を目指した例はあるそうです。

 で、そういう話をしていて久しぶりにテキラーナを検索してみると何と!いくつか出てきます。メルカリにも出品がありますが、私が見たものは全てSOLD OUTでした。
唯一買えたのがです。

f:id:wachikuma:20201008231641j:plain

 すぐ蒔きたいところなんですが、やっぱり春蒔きかな。
芽が出たら報告しますね。

 追記:この記事を見られた方がわざわざ生産者さんのところに行ってくださって、在庫があることを確認してサイトを紹介してくださいました。
早速購入させていただきました。ありがとうございます。
着荷したらこちらで報告しますね。
もしかしたら更新されていないだけかもしれませんが、現在も在庫ありになっています。

www.biguppalm.com

 この記事を読んでいただいたテキーラマニアの前田顕義さま、その師にあたるテキーラ研究家の松浦芳枝先生のご指摘を受け一部修正いたしました。
ありがとうございます。(2020/10/10 まぐろの日)